言葉の芥場

思ってることを、思っているままに。日ごろ、堆積したことばを吐き出す場所。

Possibilistという考え方

世界情勢や社会問題について深く勉強すればするほど、世界の現状に絶望したりイライラしたりします。なんとかしたいと思っても自分の力ではどうしようもないことが多すぎて嫌になることが多いです。自分のやれることをやろうと日々努力をしていますが、いかんせん問題が大きすぎて、世界規模での前進が見えなさ過ぎてストレスを感じたり、何となく未来が怖いもののような気がする生活を送っていました。この考え方を大きく変える一冊と出会いました。この本が衝撃的過ぎたので、今回ブログで書くことにしました。

その一冊とは、2018年に出版されたハンス・ロスリングのFactfulnessという本で、日本語版も出ています。冬休みに入って、自分の好きなものが読める時間が増えたのでこの本を読むことにしました。国連や世界銀行などが出しているシンプルな統計やデータをもとに、世界の現状を正しく描き、多くの人が持つ勘違いを正すことがこの本のテーマです。著者は統計学者などではなく、世界各国の貧しい地域での医療経験のある医者で、テッドトークなどでも頻繁にスピーチをするような人です。おかげで、数字の羅列や統計の難しい話だけでなく、実体験を交えた読みやすい文章でつづられています。結果、書かれていることは大きな問題なのにするすると読めてしまいます。

この本は、多くの人が持つ10の本能的な勘違いを指摘して、fact-based world view,つまり事実に基づいた世界の見方を進めています。書いてあることすべてとても面白かったし勉強になることばかりでしたが、その中でも特に印象に残ったのがpossibilistという考え方です。彼はあまりにドラマチックな世界の見方を否定しています。例えば、今すぐに何か大胆なことをしなければ人口が増えすぎて大変なことになる、とか世界はだんだん悪い場所になっていくんだ、とか。その代わりに彼は過去を振り返り、実際はどうなっているのかを冷静に分析しています。例えば、世界の貧困は今までにないほどの勢いで減っていたり、世界の人口増加は以前に比べて緩やかになり始めていることなど。読む以前から、彼がこういった議論をしていることは知っていました。僕個人は、こういったことを見るのはいいけれど、これらを強調することで、今直面している問題から目を背けているように思えました。彼が、問題は解決するから大丈夫だと言っているのかと思っていました。しかし、彼はそれについて本の中ではっきりと否定しています。彼は自らをpositivist, 楽観主義者ではなくpossibilist, 可能性主義者だと言います。この本の中で一番好きな一文がpossibilistが何なのかを美しく描写しています。

It [possibilist] means someone who neither hopes without reasons, not fear without reasons, someone who constantly resists the overdramatic worldview.

 つまりpossibilistとは、理由なしに希望を抱いたり恐怖を抱いたりせず、ただただあまりに激情的な世界の見方を否定する人のことです。

さらに彼は、「悪い現状」と「改善している現状」が両立することも主張しています。確かに世界中には貧困に苦しむ人がたくさんいて、現状が良いとは言えない。それでも貧困率は歴史上もっとも低くなっている。貧困にあえぐ人が減ってきたというポジティブな現状が確かにあって、それを認めることは決して今の悪い現状から目を背ける事ではない。さらに言えば、この成果はむしろ今までの努力の結晶であり、今後の努力の糧になるものだと彼は書いています。よく考えればわかりそうなことですが、これを読んだ時、この考え方が出来ていなかったことに気づいて衝撃を受けました。ブログの始めに書いた自分の考えは悪い現状のみを見ているし、彼のポジティブなデータを目を背けさせるだけだと思っていた僕の考えは二つの状況の両立を否定しています。

 この本に書かれていることが、自分がしょっちゅう感じている無力感とか絶望感を和らげてくれた気がして、世界をポジティブに見られるようになった気がして、読後、とてもすがすがしい気持ちになりました。

もちろん、世界には解決しなければならない問題がたくさんあります。この本の著者も世界のこれからを心配しています。それでも、正しい世界の姿を理解せずにどれだけのことができるでしょうか。絶望的な内容ばかりを見てどうやってモチベーションをキープできるでしょうか。改善されている実例を見れば、ちっぽけな僕でも何かできるのではないかとさえ思えます。

ドラマチックな世界の見方を反省しつつ、事実しっかり見つめてpossibilistであろうと思います。